Dublin ドラクエ記


2017/08/19
今思い返しても感慨深い話を書き記しておこう。

時は6月28日、アイルランドのカムデンスタジオにて。
レコーディング続行不可という事態が起きた。
緊迫した状況が28日の朝から翌日夕方まで続き、和解した時には擦り切れそうなほど心身共に消耗していた。

和解後、私はとあるアパートの一室を、予約サイトで当日予約した。
宿泊施設のタイプには、ホテル・BB(民宿)・ホステル(子ども不可な場合が多い)・アパートメント(オーナーが空き部屋を貸す)などがあるが、週末のダブリンで空いているところはこのアパートしかなかった。

宿泊施設がアパートメントである場合はオーナーから鍵を受け取る必要があるので、その連絡があるはずだと思い、Wi-Fiの利用できるレストランで夕食を食べながら連絡を待っていた。

が、1時間待てど2時間待てど、連絡は来なかった。

疲れていた私たちはとにかく早く横になりたかったので、待つのをやめてアパートの住所に向かうことにした。
これが大冒険の始まりだった。


指定された住所に辿り着くも、そこはオフィス街のど真ん中でアパートらしきものは無かった。

道ゆく人に聞きまくったが
「確かに住所はこのへんだけど、知らないなぁ〜。あっちのあたりで人に聞いてごらん」
「Googleで見たらこっちの方みたいだよ、行ってごらん」
という回答ばかりで、同じところを何度も行ったり来たりするばかりだった。


途方に暮れ、アパートのオーナーに連絡しようとWi-Fiのある場所を探したのだが、何故かどこにもなかった。
疲れで頭が回らずいっそ別の宿泊先を探したかったのだが、Wi-Fiも無いのでアパートを見つける以外に道はなかった。


次に尋ねた人は、ロングヘアーの女性だった。彼女は
「あ〜ちょっと待って、インターネットで調べてみるわ。・・・うーんこっちだね、カモン!」と言って歩き出した。
彼女の歩き出した方角は明らかに違う気がしたが、ついて行くしかなかった。
そのうちに彼女も「おかしいなぁ〜」と言い出したが
「タクシーのおっちゃんに聞いてみるね!」
「あそこのガイズに聞いてくるからちょっと待ってて!」と諦めずに探してくれた。


時間が過ぎ、チェックインの期限が差し迫り焦っていた私は
「悪いんだけどオーナーに電話してもらえない?私の電話、使えないんだ」と尋ねたが、彼女はあっけらかんと笑いながら
「私も電話使えないよ〜!私もイミグレーションなの!ブラジリアンよ!英語勉強しに来てるだけなの!」と言った。
彼女の名前は“デブラ”と言った。


デブラはずっと陽気で明るくて、息子と遊びながら、ひたすら人に聞きまくってくれた。
しかし時刻は22:00を過ぎ「もうチェックイン出来ない」と泣きそうな顔になっている私をハグしながらデブラは
「だ〜〜いじょ〜〜ぶ!心配しな〜い!」と励ました。
息子はデブラと手を繋いで「かあちゃん楽しいね!」と言っていた。


人に尋ねまくるうちに、一番最初に来たオフィス街にたどり着いた。
やはり住所はここで間違いないのだが、アパートが見当たらない。
デブラは辺りを見回すと、既に閉館しているビルの入り口をノックしまくって中にいた夜間警備員を呼び出した。
事情を聞いた警備員のおっちゃんがアパートのオーナーに電話をかけてくれるという!
やった!

流暢な英語の会話に感心していると、おっちゃんは電話を終え
「OK、ガイズ!こっちやわ!」と歩き出した。

あぁ・・・これでなんとかなる・・・。と、思った。その時は。

おっちゃんはビルを出て、隣接しているコンビニの、その隣にある大きな門・・・の、サイドにある、小さなボックスのナンバーを一生懸命小突き出した。

??????
まったく意味がわからない。何故かって、そのボックスは大きな門のオートロックシステムのように思えるのだが、門は既に開いているのだ。

おっちゃん「君ら、暗証番号ないの?暗証番号あるはずやで!」

暗証番号?!

ないよ。予約サイトの予約番号しかないで!と伝えたが、おっちゃんはその予約番号も入力してみる。もちろん開かない。
おっちゃんとデブラは隣のコンビニに入って店員にも聞いてみる。が、店員は何も知らない。
諦めたおっちゃんとデブラは、開いているその大きな門から中へと進んだ。
そしてその先には、豪邸のような集合住宅が建っていた・・・・・・・・・・・。
まさか、これがアパート・・・?!

アパート名はどこにも書かれておらず、そびえ立つ門は押しても引いても開かなかった。

デブラは中にいた二人組の女性に声をかけた。

デブラ「ねぇ、君たち、ここって◎◎◎アパート?!」
女性二人組「そうだよ」

そう、アパートは一番最初に来た場所であっていたのだ!(アパート名無いし、豪邸すぎて気づかなかった)

しかし扉が開かない!

すると突然おっちゃんが

「あかん!もう帰らなあかんわ!仕事中やからな!頑張って辿り着けよ!」

と言って突然帰って行った。まじか!
おっちゃん、ありがとう!警備がんばって!


門越しに女性たちに事情を話すと
「あーなるほど、確かにそのアパートはここで間違いないわ。でも、鍵を持ってない人を中に入れることはできないのよ、ごめんね・・・」
と言って去って行った。
きっとこれから二人で出かけるところだったのだろう。

時間は24時を越えようとしており、アパート内は静まり返っていた。
思考停止した私は、口を開けたまま固まっていた。
そんな私を見てデブラは
「大丈夫だよ!心配しないでOK!!」
と言ってハグし、別の入り口を探し始めた。
しかし中に入れたところで、部屋の鍵も持っていないのだから何も解決しない。


5分ほど過ぎ、門の前で座り込んでいると後ろから誰かに声をかけられた。
それは、さっきの女性二人組だった。心配して戻ってきてくれたのだ。

「ねぇ、大丈夫?オーナーに電話してあげるよ。電話番号は?」

彼女は自分のiPhoneで電話をかけ、オーナーと話をしてくれた。
電話中、もう一人の彼女が
「ジャパニーズ?私、コリアンよ」
と笑顔で話しかけてくれた。


オーナーと電話しながら彼女はどこかへ歩き出した。
ついて行くと、そこはあの謎の小さなボックス・・・・
電話口のオーナーの指示通りに彼女がナンバーを入力すると、ボックスがパカッと開いて中から鍵が2つ出てきた。

なんじゃそりゃ〜〜〜〜〜!!!!!!!
どないなっとんじゃ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!


もう一気に力が抜けた。
レコーディングのことなんて吹っ飛んだ。
配管に取り付けられた10cm四方の小さな小箱から鍵が出てくるだなんて、誰が想像できようか。(反語)
しかも全然開きそうにない見た目やのに!むきー!
(この時私は「セルフチェックイン」というものを初めて知った。)


あぁ。警備員のおっちゃん、疑ってごめん、おっちゃんが正しかったよ。
オーナーは、ゲストじゃないおっちゃんには暗証番号を教えられなかったんだね。
その後再度別の人物から電話がかかってきたオーナーは、深夜24時を過ぎてもゲストのジャパニーズがチェックイン出来てないと聞かされ仕方なく、トップシークレットのはずの暗証番号を、ゲスト以外の人物に教えてくれたんだね。
私だけが分かってなかったこと・・・今わかったよ、みんな・・・。

ということは、やっぱりオーナーは私がレストランを出た後にチェックイン方法(暗証番号)をメールしてきているはずだ!


女性はその後もオーナーと電話で話し、私たちの部屋番号、Wi-Fiのパスワード、チェックアウトの方法を聞き出してくれた。
電話を終え、部屋まで送ってくれるという。
それを聞いたデブラはあっさりと
「たどり着けて良かった!じゃあ私はもう行くね!」と言った。
別れが惜しかった。でもそれは私のエゴな感情だと分かっていた。

デブラとハグをして、本当にありがとうと伝え、お別れをした。
連絡先を聞こうとも思ったのだけれど、彼女の笑顔と無償の優しさに触れ、これが一期一会の出会いであると感じたから聞かなかった。
彼女のように笑顔で、陽気で、明るくさえいれば、どんなこともなんとかなる。
それくらい、みんな優しい。
デブラ、本当にありがとう。また地球のどこかでね!

その後女性二人組はオーナーから聞いたことを説明してくれ、私たちの部屋まで案内してくれた。
(アパートが広すぎてすぎて、彼女たちの案内がなければ辿り着けなかったと思う。)
部屋の前でハグをして、ありがとうと伝え、名も知らぬ彼女たちとお別れした。


部屋は驚愕の広さだったが、時はすでに深夜1時を迎えており、部屋に着くまで大はしゃぎしていた息子は倒れるように寝た。
ゆうじはかろうじて洗濯機と乾燥機を回し、倒れるように寝た。
Wi-Fiを入れてメールをチェックすると、やはりレストランを出た直後にオーナーからのメールが来ており、そこには超長文で先ほどのチェックイン方法が書かれていた・・・・。


この体験は私にとって、ドラクエだった。

そう、今回の作品は、レコーディングチームだけによって作られたものではない。

この日受け取った人の優しさも、そんな優しさに満ちた世界の美しさも、私がこれから出会う人たちに還していこう。

そう思いながら、倒れるように寝た。

明日からのレコーディングに向けて・・・。

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10年計画 | Paris4@フランス(メモあり)